適正技術の源流を訪ねて

nao-tanaka2008-11-04


 APEXの活動は、主に適正技術を軸として展開されていますが、その適正技術の概念は、「スモール・イズ・ビューティフル」を著したE.F.シュマッハーによって先駆的に打ち出されたといわれています。そのシュマッハーが1966年に設立した中間技術開発センター(ITDG, The Intermediate Technology Development Group)というイギリスの団体があり、以前から一度訪ねてみたいと思っていました。実は十数年前に会社の出張でロンドンに行った時に、空いた時間ができたので、飛び込みで訪ねようとしたことがあるのです。ディアン・デサ財団に聞いて教えてもらった事務所の所在地は「ラグビー」となっていました。てっきりロンドン市内と思い、ロンドンの地図を買って調べたら確かにラグビーという通りがあるので、そこだと思ったのです。それでタクシーに乗って、住所を見せてここへ行って下さいというと、とんでもないという風に首を横に振られてしまいました。

 そういう、あとで思うとおよそ見当ハズレなことをやって、その時は訪ねることができなかったのですが、今回またイギリスへ行く機会があり、やっと訪問が実現しました。今度はホームページで地図を調べ、事前にメールでもやりとりして行きました。ラグビーというのは、実はロンドンから北西へ100kmほどのところにある都市でした。イギリスの国営鉄道に乗って約1時間、そのラグビーという駅で降り、そこからまた車に乗って20分あまり、のどかな田園風景の中を走って、その団体の事務所に着きました。2008年9月29日のことです。事務所といってもあまり事務所らしくなく、大きな邸宅のような建物です。この日はチーフ・ディレクターの方はお留守で、インターナショナル・ディレクターのニック・バーンさんと、コーディネーターのネイル・ノーブルさんが迎えてくれました。団体の名前はもうITDGではなく、プラクティカル・アクション(Practical Action)に変わっています。もともとロンドンに本拠地があったそうですが、その後活動分野毎にイギリス各地に拠点ができ、やがて物価の安いラグビーに集約されていったとのこと。現在は、年間予算約2000万ポンド(約40億円)、専従スタッフ約600名の大きな団体になっていて、ケニアスーダンジンバブエスリランカバングラデシュ、ペルー、ネパールにそれぞれ事務所を持ち、住民がコントロールしやすいシンプルな技術を用いて、貧困を緩和し、生活を向上させる活動などを展開しています。活動分野も、農業、家畜の飼育、小規模水力発電職業訓練、衛生改善、市場・流通の適正化等多岐にわたります。こうやって、適正技術の団体が発展しているのはうれしいですが、ただ、600名のスタッフのうち技術者は何人くらい?と聞くと、5,6名ともいうし、最大15名ともいい、あまりはっきりしません。それほど技術開発には力を入れていない印象があり、また、近代技術へのスタンスがAPEXとは少し異なるように思いました。APEXのほうが、近代技術に対して批判的でありつつも、その一方で近代技術の中の使える要素をより積極的にとりこもうとしているようなのです。

 もともと適正技術の概念は、一時期の援助が、技術をとりまくさまざまな条件に配慮しない技術移転により失敗した反省にもとづいて出てきた面があります。最近になって、地球環境問題を背景に、環境技術の移転ということががぜんクローズアップされてきましたが、そこでもかつての援助と同じ間違いが繰り返される心配があり、新しいコンテクストで適正技術が重要になってきていると思います。そういう話をすると、ニック・バーンさんらも賛同してくれ、そのうち協力して適正技術の国際会議でもやりましょう、といいつつ事務所をあとにしました。


ラクティカル・アクションの事務所にて。ニック・バーンさん(中央)、ネイル・ノーブルさん(右)と