バイオマスガス化、次の段階へ

 2000年から取り組んできた、粘土を用いたバイオマスの流動接触分解ガス化の技術開発は、2009年までで実証テストプラントの運転を終えたあと、廃棄物系のバイオマスで発電する検討をしたものの、発電ではなかなか経済的に成り立つのがむずかしく、足踏み状態が続いていました。それが、最近になって、ようやく次の段階に進める見通しになりました。
 もともと、このバイオマスガス化事業は、長崎総合科学大学の坂井正康先生が書かれた、雑草からメタノールをつくることをキャッチフレーズにしたような本に刺激を受けて始まっています。今回も次の展望が開けたのは、坂井先生のおかげでした。
 APEXのバイオマスガス化技術は、ガス化炉と再生塔の間を粘土触媒を循環させながらガス化するもので、ガス化炉には主にスチームを(実際は空気もある程度入れることが多いです)、再生塔には空気を入れて運転します。そうすると、空気でガス化する場合より、ずっと高品質・高カロリーのガスが得られ、それは、メタノールなどの液体燃料を生産するのに適しています。ただ、生成したガスからのメタノール合成は高圧の触媒反応で、これまで経験したことがなく、インドネシアなどで私たちが手がけるのはむずかしいだろうと考えていました。しかし、発電ではなかなか採算がとれず、また、最終的には液体燃料をつくることにこだわりがありましたので、2010年の11月に、長崎に坂井先生を訪ね、メタノール合成プラントを見学させてもらいました。実際にプラントを見ると、触媒を詰めたシリンダー状のリアクターにコンプレッサーでガスを導入して、できたメタノールを回収するだけなので、ずいぶんシンプルなものという印象を受け、これなら、自分たちでも何とかできるのではないかと思いました。但し、導入するガスを前処理して、よく不純物を除いておくことが大事だそうです。坂井先生は、インドネシアでの協力にも前向きなご意向でした。
 折しも、東北大学の原田先生から、JST(科学技術振興機構)と、JICAが連携して行っているSATREPS(地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム)という制度があることを聞きました。科学技術の研究開発と、途上国での実装をリンクさせて展開していくプログラムであるとのことで、これこそAPEXとして取り組むべきプログラムではないかと思いました。
 仕事を先に進めるには、研究開発的要素も大事で、また、このスキームは主に大学などの研究機関が中心になって応募するプログラムでもあるので、農工大での実験から協力していただき、その後、群馬大学へ移られた野田玲治先生と相談して代表研究機関になってもらい、インドネシア側は、2003年から何かと協力関係にあり、NEDO事業も協力して実施したBPPT(インドネシア技術応用評価庁)、これまでの現地での開発の主たるパートナーであったディアン・デサ財団などを共同研究機関として、まず2012年度のSATREPS事業に申請しました。残された課題を解決しながら、バイオマスをガス化し、できたガスからさらにメタノールを合成するという内容です。
 最初の年度は面接までいったものの落ちてしまいましたが、それでも、めげることなく、改善を重ねて、2013年度に再挑戦。さいわいにも条件付き採択となりました。「条件付き」というのは、正式に事業が開始されるためには、JICAと相手国研究機関との国際約束の形成等が必要となるためですが、まず問題なく進むと思われます。応募件数98件、採択件数10件とのこと。カテゴリー別では、応募した環境・エネルギー分野の「低炭素社会の実現に向けたエネルギーシステムに関する研究」への応募14件、条件付採択1件でした。APEXでこれまで関わってきた中でも最も規模の大きいプロジェクトになります。
 最近の、強大な台風の出現や竜巻の頻発、大雨、極端な高温や低温、季節のサイクルの乱れなど、「これまで経験したことのない」異常気象が日常化しつつあるような状況は、温暖化のなせるわざであることは明らかだと思います。それらは人間社会への警告ともいえるもので、それをしっかり受け止めて、できるだけ早く再生可能なエネルギーに転換していかなければいけないことは論を待ちません。このまたとない機会を生かして、本当に役に立つ技術をつくりあげ、広めていきたいです。